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呼吸器外科


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2012年、呼吸器外科を開設しました。当科では、主に肺腫瘍(肺がん・転移性肺腫瘍)、縦隔腫瘍(胸腺腫など)、気胸の手術をおこなっています。診療ガイドラインに基づいた標準治療を軸として、患者さま個々の病状を考慮して最適な治療法を提案します。
これまでの総手術件数は1,500例以上で、うち2022年の手術件数は200件を超える診療実績があります。2024年1月、呼吸器外科専門医合同委員会より専門研修基幹施設に認定されました。

一宮西病院 呼吸器外科の特色

  • 肺がん手術は、胸の中の操作全てをモニター視でおこなう胸腔鏡手術を主におこなっています(2022年は約90%)。できるだけ多くのがん患者さまを救うため、手術の方法(胸腔鏡開胸ロボット)によらず、がんを取りこぼさず切除できるよう、精緻な手術操作を心がけています。
  • 気胸の手術では、低侵襲性(傷を少なくすること)と再発予防(肺の補強方法の工夫)の両立に取り組んでいます。
  • 手術支援システム「ダビンチXi」を用いたロボット手術も、肺がん・縦隔腫瘍に導入しています。
  • フラットなチーム作りで、安全で質の高い医療を提供します。


主な対象疾患

一宮西病院 呼吸器外科では、関係各科(呼吸器内科放射線科救急科など)と連携して主に以下のような胸部の疾患に対して、手術を中心とした専門診療をおこなっています。
  • 肺の腫瘍
    原発性肺がん、転移性肺腫瘍など
  • 気胸
    若年者の原発性自然気胸をはじめとして、女性気胸、難治性気胸にも対応します
  • 縦隔・胸壁の腫瘍
    胸腺腫瘍、神経原性腫瘍など
  • 胸部外傷
    肋骨骨折、血気胸など
  • 感染症
    膿胸など
  • その他良性疾患
    肺動静脈瘻、肺分画症など

肺がんの手術について

当科の肺がん手術の特色

  • 早期肺がんに対しては、完全胸腔鏡下手術を基本としています。
  • がんを取りこぼさず切除できるよう、精緻な手術操作を心がけています。
  • 病状により、傷の少ない単孔式胸腔鏡手術も実施しています。

肺がんの疑いがあると言われたら

実際に肺がんであるかどうか、肺がんであればどのような治療をおこなうのが良いか、当院では呼吸器内科・呼吸器外科が連携して、診断・初期治療のご提案をいたします。肺がんについてより詳しく知りたい場合は、がん情報サービスのサイト(https://ganjoho.jp/public/cancer/lung/)もご覧ください。

手術の対象となる肺がん

肺がんの治療は、がんの種類(組織型)と、がんが体のどこまで広がっているか(ステージ=病期)によっておおよそ決まります。手術の適応となる肺がんのほとんどは、「非小細胞がん」という種類(腺がん・扁平上皮がんなどをまとめてこのように呼びます)のがんです。
「非小細胞がん」では、肺の中や近くのリンパ節までにがんがとどまっている場合、手術でがんを取り除くことによって根治を目指すことができます。表のように、0期からII期までと、IIIA期の一部の患者さまに手術の適応があります。手術に加えて化学療法や放射線治療をおこなうことで治療効果が高まると考えられる場合は、これらの治療を組み合わせた集学的治療をおこないます。
「小細胞がん」では、リンパ節転移がないIIA期までの場合、初期治療として手術をおこないます。

非小細胞肺がんのステージ(病期)と主な治療

※実際のステージ分類はより細かいため、病状がこの表と一致しないことがあります。

2022年から、手術後の抗がん剤治療(術後補助化学療法)が大きく変わりました。従来は、ステージII期・III期非小細胞肺がんの患者さまの術後補助療法は、シスプラチンなどの「殺細胞性抗がん剤」のみでおこなわれていました。近年、肺がんの治療薬の研究が進んできており、肺がんの組織検査で一定の条件を満たす(がん細胞に特定の遺伝子変異があるなど)場合は、「分子標的薬」や「免疫チェックポイント阻害剤」といった新しい薬剤を術後補助化学療法に用いることが通常の保険診療で可能になりました。治療効果は患者さまごとに異なるため一概には言えませんが、従来の治療だけではこれまで治しきれなかった肺がんも、複数の治療方法を組み合わせること(集学的治療)で治していけるような時代になってきました。進行肺がんと診断されても、一緒に前を向いて治療を乗り切っていきましょう。

手術の方法について

肺がんの手術は、まずどのくらいの範囲の肺・リンパ節を切除する必要があるか()、次にどのような手段で手術をおこなうか()、この2点を検討して計画を立てていきます。
①どのくらい肺を切除する必要があるかについて……

肺の切除方法には主に、肺葉切除、区域切除、部分切除の3つがあります。右肺は3つ、左肺は2つの「肺葉」という袋が繋がってできていて、上から順に上葉、中葉(右のみ)、下葉と呼ばれています。この袋の単位で切除をするのが「肺葉切除」という方法です。大きながんでも肺葉の中に入っていれば、肺葉切除をおこなうことでがんを取り出すことができます。また、がんがリンパの流れに乗って近くのリンパ節に転移をすることがあるため、極早期の肺がんを除き、近くのリンパ節を肺と一緒に切除する(リンパ節郭清といいます)ことが一般的です。
数十年来、肺がんを切除する標準的な方法は肺葉切除でした。近年になって、早期肺がんの中でも一定の条件を満たしていれば、肺をより多くのこしてがんを切除する「区域切除」や「部分切除」をおこなっても、十分な治療効果が得られることが分かってきました。ただし、治療効果を高めるために肺葉切除が望ましい場合でも、残る肺の機能が十分でない場合は区域切除や部分切除をお勧めすることがあります。
当科では、最新の肺癌診療ガイドラインや研究成果に基づいて、がんを根治することと肺をできるだけ温存することを両立できるよう努めています。
②手術の手段(アプローチの方法)について……
当科では、3〜4ヶ所の小さい傷で完全モニター視野下に行う胸腔鏡手術(VATS; Video-Assisted Thoracic Surgery)を基本としています。病状に応じて、5〜20cm程度の切開でおこなう開胸手術(胸腔鏡補助下手術)をおこなうこともあります。また、2.5〜4cmの傷1ヶ所でおこなう単孔式胸腔鏡手術(Uniportal VATS)や、手術支援システム「ダビンチ」を用いたロボット手術もおこなっています。詳しくは、下の呼吸器外科手術のアプローチ方法をご覧ください。

気胸について

当科の気胸治療の特色

  • 呼吸器内科・呼吸器外科・救急科が連携して、24時間体制で対応しています。
  • 原発性自然気胸に対しては、2cm程度の傷1ヶ所からおこなう単孔式胸腔鏡手術を原則おこないます。
  • 低侵襲性(傷を小さく・少なくすること)と、治療効果(空気漏れを直すこと・再発を抑えること)の両立に取り組んでいます。
  • 肺気腫・肺線維症などに伴う難治性の気胸には、手術や気管支塞栓術などを必要に応じて組み合わせて、早期退院を目指す治療をおこないます。
  • 子宮内膜症性気胸(月経随伴性気胸)に対して、再発率低減のための胸腔鏡下全胸膜カバーリング術(TPC; Total Pleural Covering)を導入しています。

気胸とは

肺は風船のように空気で膨らんでいる臓器です。その肺が何らかの原因で破れて、しぼんでしまう病気が「気胸」です。無症状から、呼吸困難が急激に進行し救急搬送が必要なものまで、病状はさまざまです。気胸だけで命を落とすことはあまりありませんが、破れた肺が元に戻るまでの間、息切れや胸痛などの症状が続き、部活動・仕事・飛行機による移動などが制限されるため、生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼします。治った後に再発することもあるため、病状や社会的な背景などを考えながら治療方針を決めていく必要があります。気胸と診断されたら、ぜひ呼吸器外科のある専門施設で治療を受けることをお勧めします。

気胸の種類

気胸は大きく3種類に分けて考えることができます。
原発性自然気胸 嚢胞(のうほう)と呼ばれるプチプチのような空気の袋が肺表面にでき、それが破れて発生します。10~20歳代の男性に多く、肺尖部(はいせんぶ / 肺の最も上の部分)の表面に嚢胞ができていることが多いです。身長の伸びる速さと肺の成長が釣り合わず、肺が引き延ばされた状態になることで生じるともいわれていますが、はっきりとしたメカニズムはわかっていません。
続発性自然気胸 肺気腫、間質性肺炎、胸腔内子宮内膜症など、何らかの病気に伴って起きる気胸です。
外傷性気胸 大きな胸部外傷(交通、転落事故など)で肺を損傷して発生します。

気胸の診断と治療

気胸になっているかどうかの診断は、主に胸部X線検査(レントゲン)、または胸部CT検査でおこないます。気胸の治療法には次のようなものがあります。病状に合わせて、これらを組み合わせて治療をおこないます。
保存的療法
  • 安静
  • 胸腔穿刺
  • 胸腔ドレナージ
気胸になったら第一におこなう治療法です。軽症の場合は数日間の安静で気胸が改善することもあります。肺のしぼみ具合や病状経過により、胸腔穿刺(きょうくうせんし / 胸に細い針を刺して中に溜まった空気を抜く)や胸腔ドレナージ(胸の中に鉛筆くらいの太さの管をいれて、肺から漏れた空気を持続的に抜く)をおこないます。
手術 保存的療法で気胸が改善しない、気胸を繰り返す、あるいは受験や仕事などのために当面の再発を予防したい場合におこないます。空気漏れの原因となった嚢胞の切除や、肺表面を破れにくくするための補強をします。ほとんどの場合、胸腔鏡(きょうくうきょう)で手術をおこないます。胸腔内子宮内膜症性気胸(いわゆる月経随伴性気胸)に対しては、患側肺全面を補強材で覆うTPC(全胸膜カバリング術)を導入しています。
胸膜癒着
(きょうまくゆちゃく)
療法
胸の中にいれた管から自己血(患者さまご自身の血液)や薬剤を入れることで、空気漏れの部分を塞ぎます。
気管支塞栓
(そくせん)
療法
空気漏れの原因となっている部分に、空気が入らないようにする治療です。気管支鏡(胃カメラを細くしたようなもの)を使って、シリコンの栓を気管支の奥に運んで詰めて塞ぎます。

気胸の低侵襲手術について

気胸の手術は、2~3ヶ所の穴をあける胸腔鏡手術でおこなわれることが一般的ですが、当科ではさらなる低侵襲化を目指して、2018年3月から原発性自然気胸の患者さまに対して、2cm程度の傷1ヶ所で手術をおこなう単孔式胸腔鏡手術を導入しました。従来の手術に比べて傷が少なく見た目に優れ、痛みも少ない長所があります。1ヶ所の小さな傷から同時に何本も器具を挿入しておこなうため、高度な技術を要する手術ですが、当科では多くの実績があります。手術前に胸に管(ドレーン)を通してある場合は、管の入っている傷をできるだけ使用して手術をおこないます。従来の胸腔鏡手術と比べて、当科の単孔式胸腔鏡手術では手術時間や術後合併症、再発率は同等です。

原発性自然気胸の手術治療成績

2015〜2021年に原発性自然気胸に対して、当院で手術を受けられた患者さまの再発率をグラフにしています。2018年3月から気胸に対する単孔式胸腔鏡手術を導入していますが、現在のところ従来の胸腔鏡手術(2〜3ヶ所の傷でおこなう胸腔鏡手術)と比較して遜色ない成績となっています。再発率は全体で9.2%となっています。保存的療法(安静・胸腔穿刺・胸腔ドレナージ)のみで治療した場合の再発率は30〜50%程度といわれていますので、再発を減らすことができるのは手術のメリットの1つです。当科では、関連学会で近年報告されているデュアル・カバーリング法(肺表面を補強材で二重に覆う方法)を用いて肺表面の補強をおこなっています。また、多くの患者さまが手術後2日以内に退院されています。手術では空気漏れしている部分を直接修復できるため、破れた穴が自然に塞がるまで待機しなければならない保存的療法と比べると、多くの場合早く退院することができます。左右両側の気胸の治療が必要な場合、病状等にもよりますが両側とも同時に手術をおこなうことも可能です。

当科の体制について

呼吸器外科専門医3名がワンチームで診療にあたります。入院患者さまの診療状況は常に全員で共有しており、何かあった際に主治医が来棟できない場合でも他の医師が随時対応します。

安全で質の高い診療・手術をおこなっていくためには、スタッフ同士が年齢や役職などに関係なく、互いに自由な意見を出しあえる環境作り(心理的安全性)がとても大切です。当科では、このような認識のもとに日頃からコミュニケーションを密に取り合い、治療方針の決定や手術手技向上のためのカンファレンス(会議)を毎週おこなっています。
外来 手術 外来
合同カンファレンス(呼吸器外科・呼吸器内科放射線治療科)
手術 外来
術前カンファレンス
手術ビデオ検討会

呼吸器外科手術のアプローチ方法

胸腔鏡手術 (Video-Assisted Thoracic Surgery; VATS)

3〜4ヶ所程度の小さな傷で手術する方法です。当科の肺がん手術は主にこの方法でおこなっています。胸の中に太さ5mmの胸腔鏡(カメラ)を入れて、高精細モニターを見ながら操作をおこないます。開胸手術と比較して、(1)整容的に優れる、(2)痛みがやや少ない、(3)虫めがねで見るように手術する部分を拡大視できる、(4)みんながモニターを見ることで情報共有ができるといった利点があります。高度な技術が必要な手術ですが、当院では、胸腔鏡手術(VATS)の経験がある専門医が複数在籍しており、お互いに連携しながら手術を進めていくことで、安全で精度の高い手術を目指しております。

開胸手術 (胸腔鏡補助下手術)

5〜20cm程度の傷で、肋骨と肋骨の間を広く切開して胸の中を直接見ながら手術する方法です。がんが大きい場合や、がんが大血管や気管支などに浸潤している可能性がある場合など、胸腔鏡手術(VATS)と比較してより安全で確実な手術ができると判断されるときには、この方法で手術をおこないます。切開の大きさや場所は、患者さまの病状等により個別に決めています。

単孔式胸腔鏡手術 (Uniportal VATS)

1ヶ所の小さな傷から手術する方法です。当院では、気胸や膿胸、一部の肺がんや転移性肺腫瘍などに対して実施しています。1ヶ所の傷から全ての器具(3〜5本程度)を入れて操作をおこなうため、胸腔鏡手術と比較してさらに高度な技術を要する手術です。
当科では2017年からこの手術を導入しており、2018年には海外研修にも参加して技術を持ち帰り、肺葉切除・区域切除もおこないました。2022年までに単孔式胸腔鏡手術全体で120例以上の経験があります。複数の傷でおこなう胸腔鏡手術(VATS)と比較して、整容性に優れており、痛みも少ない傾向にあるといわれています。気胸手術や肺部分切除をおこなう場合は2cm程度、肺葉切除や区域切除をおこなう際は2.5〜4cm程度の傷で手術をおこないます。

ロボット支援手術 (Robot-Assisted Thoracoscopic Surgery; RATS)

手術支援システム「da Vinci(ダビンチ)」を使用して手術する方法です。ロボット手術をおこなうためのトレーニングを修了して認定された医師が執刀します。当科では、肺悪性腫瘍に対する肺葉切除・区域切除、縦隔腫瘍切除、重症筋無力症に対する拡大胸腺切除を保険診療でおこなうことができます。胸腔鏡手術(VATS)と比較して、3Dカメラで立体的な拡大視ができることや、手術器具の関節を自分の手のように自由に曲げることができることがロボット手術の利点です。

肺がん手術の傷の位置や大きさの例

縦隔腫瘍手術の傷の位置や大きさの例

手術実績(2017〜2023年)

手術実績

2017年 2018年 2019年 2020年 2021年 2022年 2023年
手術件数 128 168 184 194 166 201 202

疾患別の手術件数

手術方法別の手術件数


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