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今こそ学ぼう! 乳がんの正しい知識 乳がんに関する知っておきたい6つのこと


乳がんに関する知っていきたい6つのこと

鈴木 瞳(すずき ひとみ)

乳腺外科部長
日本乳癌学会 乳腺専門医の資格を有し、患者さまの目線に立ち、心に寄り添った診療をモットーに掲げる“乳がん治療のスペシャリスト”です。

プロフィール詳細

1. 「乳がん」とはそもそもどんな病気ですか?

「乳がん」とはそもそもどんな病気ですか?

乳房にできる悪性腫瘍のことです。乳房は母乳を作る「乳腺」と、それを包む「脂肪組織」からなり、「大胸筋」という胸の筋肉で支えられています。乳腺組織は15~20の腺葉に分かれ、さらに多数の小葉に枝分かれしていて、ここで乳汁が作られます。そこから乳汁を乳頭に運ぶための細い管が出ており、少しずつ合流して1本の管となり乳管となって乳頭に向かっています。その乳管で乳がんは多く発生します。乳房の変化に気付かないままでいると、がん細胞が乳腺の外へ広がり、転移する危険もあります。

乳がんは女性のがんの中で最も罹患数の多いがんでして、 全てのがんの中でおよそ2割を占め、人数的には日本人女性の9人に1人が罹患します。死亡者数で見ると、大腸がん、肺がん、結腸がん、すい臓がん、胃がんについで第6位ですが、死亡率は全がん死亡のうちのおよそ9.5%と非常に低いです。これは検診やセルフチェックなどで、初期で発見される患者さんが多いというのが一番の理由として挙げられます。体の奥にある臓器にできるがんとは違い、乳がんは体の表面付近にできるので、比較的「自分で見つけることができやすいがん」といえます。

2. 乳がんの症状は?

乳がんには、ほとんど「痛み」がありません。乳房に「痛み」があり、乳がんを心配して受診する人は多いのですが、乳がんが早期に痛みを起こすことはほとんどないです。乳房に痛みを起こすのは「乳腺症」とか「乳腺炎」といわれるものです。女性ホルモンの影響を受ける「乳腺症」は、乳房が硬くなって痛みが出るケースが多いです。また乳腺に炎症が起こるのが「乳腺炎」と呼ばれるもので、その多くは授乳中に起こります。これらは良性のもので、乳房が痛いだけなら、乳がんの心配はほとんどないと考えられます。乳がんの症状の中で最も一般的なのは「しこり」です。「しこり」は、乳房から腋までの様々なところにできて、進行するにつれてだんだん大きくなります。しこりの範囲は“米粒大”から“こぶし大”まで色々あります。硬さもそれぞれ異なり、触って動く場合は良性の場合が多く、触って動かないしこりは注意が必要かと思います。

3. どんな人がなりやすいのですか? 予防法はありますか?

乳がんにかかる方のピークは、まず40代後半から50代にかけてで、そのあと閉経後にあたる60代の方も後発年齢にあたります。全体的には「大腸がん」や「胃がん」などと比べて、若くてもかかる傾向があるのが特徴です。若くして乳がんになられた患者さんを調べると、お母さんやおばあちゃんといった家族歴がある方も多いのですが、ただ患者さん全体でみると、特定の遺伝子変異が原因となる乳がんは全体の5%程しかありません。女性なら年齢問わず、家族歴問わず、誰しも乳がんにかかる可能性があると考えて下さい。

“乳がんになりやすい人”で言いますと、「閉経後の肥満の女性」は乳がんになりやすいというのは分かっています。また「喫煙」「過剰なアルコール摂取」も乳がんのリスク要因ですので注意してください。ただ、乳がんのリスクになるような特定の食品はありません。肥満を誘発するような生活習慣、つまり脂肪分の多い食生活をずっと続けているとか、運動習慣があまりないような方は、“乳がんになりやすい可能性がある”といえると思います。逆に“乳がんになりにくい人”で言うと、「運動」や「授乳」ですね。これらが乳がんのリスクを下げると言われています。授乳期間が長ければ長くなるほど、発症リスクが下がります。乳管を母乳が通る行為そのものや、「出産・授乳」に関わる「女性ホルモンの影響」が、乳がんのかかりにくさに関係していると考えられます。「運動」に関しては、閉経後の定期的な運動習慣で身体活動を高く保つことが、乳がん発症リスクを減少させるというデータがあります。

乳がんのリスク要因

4. 早期発見のために習慣的なセルフチェック

まず大切なのは「セルフチェック」です。乳がん患者さんの60%以上が自己触診で乳がんに気づいているというデータもあります。乳がんはほとんどの場合、痛みがありません。逆に言えば、痛いだけならそんなに心配はありません。逆に、気を付けるべきは「痛みのないしこり」です。そこで重要なのが習慣的な自己触診です。毎月1回で良いので、入浴時などに両方の胸を触ってしこりがないかを確認してください。自分ではしこりがあるか分からない…という方もいらっしゃいますが、毎月定期的にやっていれば身体の変化には気づくものです。

特に、妊娠中や生理前で胸が張っている人、授乳中の人の乳がんは、「マンモグラフィー」や「超音波検査」で見つかりにくいです。実際に、妊娠期に乳がんにかかった人の95%が自己触診でしこりに気づいた人でした。

自己触診のポイントは、左右の胸を満遍なく触ること。脇の下に近いところはほかの場所よりも乳がんが見つかる割合が高いですが、胸のどこにでも乳腺はあるので、乳がんはどこにでもできる可能性があります。自己触診でちょっとでも気になることがあれば、お近くの乳腺専門の医療機関にかかるのが良いと思います。セルフチェックでしこりを見つけ、その時点で治療を始めれば、乳がんは怖くない病気だと思います。

※下記「乳がんセルフチェック(PDF)」で詳しい手順をご紹介しています。

5. 40歳以上の方は「乳がん健診」を受けよう!

乳がん検診には、公費が下りる「対策型検診(住民検診型)」があります。マンモグラフィーといえばご存知の方も多くいらっしゃるのではないでしょうか? 40歳以上の方を対象とした検診で、1~2年に1度の受診が推奨されています。マンモグラフィーは撮影時間が短く、1~2枚の撮影だけで乳がんの有無が分かるというメリットがあります。この検診の結果、日本人の乳がんによる死亡率が下がったという明確な結果も出ています。日本では乳がんの罹患のピークが40代後半にあるので、マンモグラフィー検診の有用性は高いと思われます。ただ、マンモグラフィーは乳腺と脂肪を白黒写真で映し出す検査です。個人差はあるかと思いますが、乳腺が密にある方ですと、画像全体が白く写ることになります。一方、検査を通して見つけたい乳がんも白く映るので、例えるなら“雪の中で白ウサギを探すようなもの”ということになります。乳腺密度が高い人は超音波検査(任意型検診)を併用されるのも良いかもしれません。

乳がん検査の種類

6. 乳がんの治療法

乳がんの治療には「手術」や「薬物治療」などがあります。手術の基本は「悪いところをとる」ですが、2種類の手術方法があります。1つは悪くないところは残す「乳房温存手術」で、もう1つは乳房を全てとる「乳房切除術」です。温存術は部分的に悪い所だけをくり抜き、その周りの乳腺を寄せて形成するという方法です。とる範囲にもよりますが、比較的小さい傷で見た目もきれいにできます。一方、乳房切除術の場合、同時に乳房再建も今は保険でできるようになりました。自分のおなかや背中の肉で再建する自家組織再建と、シリコン製の人工物を使う人工物再建があります。手術による見た目は昔より格段にきれいになっていて、手術を受けた患者さんの満足度は高くなってきています。 

乳がんでは、手術後にがんの再発を予防する目的で行う抗がん剤治療があります。がん治療といわれると「とてもつらい」「髪の毛が抜ける」というイメージが先行しますが、乳がんに限っていえばそれは正確ではありません。乳がんは抗がん剤の効果が効きやすく、副作用も一番少ないといわれています。確かに抗がん剤治療による脱毛はありますが、治療が終われば髪の毛も元通りになります。比較的高齢の方でも抗がん剤治療ができますし、途中でリタイヤする人もほとんどいません。手術や抗がん剤治療をそんなに怖がらないで、正しい治療を受けて欲しいです。

最後にメッセージ

一般的ながんが60代以降で増えていくのに比べて、40代から急激に増えているという特徴が乳がんにはあります。ただ罹患者数が多い一方で、死亡率は他のがんに比べて少なくなっています。 ステージ0や1で早期発見された場合、10年生存率は90%以上です。検診やセルフチェックなどで早期発見できれば、乳がんは決して怖くない病気です。少しでも気になることがあれば、お近くの乳腺専門の医療機関にかかりましょう。

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