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ひざの痛みについて


日本人の多くのご高齢の方が悩んでいる“ひざ関節”の痛み。
手術だけでなく“切らずに治す保存療法”に力を入れている整形外科医、
整形外科部長の巽 一郎先生が解説します。

ひざの痛みの治療は、保存療法から

かつて、中期以降の治療は、手術により“人工関節”を入れるのが基本でしたが、私の患者さんの中に、中期でも手術をしないで元気に歩けるようになった方がいました。この事実を目の当たりにし、なるべく手術をしない保存療法で、患者さんのひざの痛みを軽減したいと考えるようになりました。

ひざ・腰の痛みは健康寿命の大敵!

高齢者人口及び割合の推移

出典: 総務省統計局「国勢調査」(1950年~2020年分), 総務省統計局「人口推計」(2022年・2023年分)

平均寿命と健康寿命の差(2019年)

出典: 厚生労働省「令和元年簡易生命表」, 総務省「令和元年推計人口」

現在、少子高齢化が加速する日本では、総人口に占める65歳以上の高齢者人口の割合が約29%を占め、国民の3人に1人が高齢者になる時代が目前に迫っています。また、世界有数の長寿国とはいえ、平均寿命と健康寿命の差が10年前後もあり、亡くなる前に日常生活が制限される生活を長期間にわたり余儀なくされています。

この“健康寿命”を延ばす努力をしなければ、長寿を謳歌することも、超高齢社会を支えていくことも困難になります。一方、健康寿命を脅かす要支援・要介護の主な原因の約4分の1を占めるのが、骨折・転倒と関節疾患です。

どんなモノも使い続ければ古くなって支障が出るように、ヒトの身体も年齢を重ねるほど関節や脊椎の病気を発症しやすくなり、立ったり歩いたりする移動機能が損なわれます。多くの人はひざ・腰に痛みを感じても我慢しがちですが、痛みの原因を知り、早期に適切な対応さえすれば、100年以上、元気な足腰を保てる可能性があります。

ひざへの負担は体重の5倍!

ひざは人間の歩行を支える要ですが、平坦な道を歩くだけでひざ関節には体重の5倍もの負荷がかかります。それでもスムーズに歩けるのは、“軟骨”とよばれる水分の多い組織が骨の表面を覆い、骨同士が直接ぶつからないようクッションのような役割をしているからです。

しかし、長年使い続ければ軟骨はすり減っていきます。やがて骨と骨が当たるようになり、レントゲンでもわからないほどの小さなヒビが生じます。これを微小骨折といい、歩き始めや立ち上がり時のひざの激痛の原因になります。

立った状態でレントゲンを撮ると、どの程度軟骨がすり減っているのかがわかります。すり減る度合いを初期・中期・末期にわけると、初期は軟骨が未だ少しでも残っている状態であり、中期は内側の軟骨のみ完全になくなり、骨と骨がくっついた状態です。そして、末期になると軟骨は完全になくなり、骨まで削られ欠損してしまいます。

長持ちひざをつくる5原則

①軟骨を増やす、足放り体操

立ち上がる前に足振りをおこなうことで、関節の潤滑剤である関節液がひざ関節全体に行き渡ります。
⇒足放り体操

②ひざへの負担減、正しい歩き方

O脚の方が普通に歩くと、ひざ関節の内側に荷重がかかります。正しい歩き方で、ひざへの負担を減らしましょう。
⇒正しい歩き方

③腹筋と大腿四頭筋の強化

安定した歩行のために、立つ・歩く際に使われる腹筋・背筋と太ももの筋肉を強化しましょう。
⇒腹筋体操・足指にぎり

④標準体重でひざへの負担を減らす

平坦な道を歩くだけで、ひざ関節には体重の5倍もの負荷がかかります。脂肪が多い方は、標準体重をめざして減量しましょう。

⑤痛み止めを常用しない

痛み止めはあくまで対症療法。消炎効果によって、自然治癒も進みません。痛みの原因を改善しましょう。

ひざの軟骨は再生する

日常生活の中でできる保存療法として、最も手軽なのが足を振ることです。

ひざの軟骨は、一度すり減ったら簡単には戻らないと思われがちです。ですが、ひざの軟骨も日々すり減ったり、新しくつくられたりと新陳代謝を繰り返しています
骨を覆う軟骨と軟骨の間には、潤滑剤になる“関節液”があり、関節のなめらかな動きをサポートするとともに、軟骨に栄養を補給しています。軟骨を修復するためには、傷んでいるときはあまり体重をかけずに、よく動かすことで栄養がしみこむのです。

朝起きたときや、デスクワークなどでしばらく同じ姿勢をしていたあとは、軟骨が乾燥している状態です。こういった状態のときに急に立ち上がると、関節液が行き渡らない部分に負担がかかり、ひざを痛める原因となります。
これを防ぐため、立ち上がる前に足振りをおこなうことで、関節液がひざ関節全体に行き渡り、スムーズに動くようになります。片足20秒で結構です。いきなり歩くのではなく、この足振りをしてから動き始めてみてください。

ひざ軟骨を守る“足放り体操”

関節液を全体に行き渡らせることで、クッション機能を保ちます。起床時(立ち上がり歩く前)にイスやベッドの縁に腰かけ、片足ずつ30回程度(約20秒)振ります。

①ひざ下が振れる高さのイスに腰かけ、両手の指を組んで、片方の太ももを持ち上げます。

②脚全体に力をこめて、ピンと伸ばします。

③太ももの力を抜くと、下腿(ひざから足首まで)が振り子のように揺れます。

④揺れを止めないように、太ももの力を抜いた状態で両手を使って下腿を振り続けます。

こんなときにおこないましょう

  • 寝起き
  • 座りっぱなしの後


からだが悪くなるしくみ

痛みなどのトラブルが起こるのは、からだを正しく動かせていないからで、不調が起きているのは“姿勢が悪く”“使い方が悪い”からということになります。

からだが正しいバランスから崩れていく最初の入り口が、“頭が前に来る”姿勢と、その姿勢で“歩く”ことです。頭を前に出して、つま先から足を着地する“ニワトリ歩き”は、ひざ軟骨をすり減らしてしまいます。
頭部の重さは体重54kgの方で約6~8kgにもなり、頭が前に飛び出ていると僧帽筋(背中から首にかけての筋肉)に負荷がかかって、肩こりになります。その僧帽筋を支えるため、背骨にある多裂筋などの筋肉群への負担も増えることで腰も痛くなります。さらに、腰が後ろに丸まり、骨盤が後ろに倒れると足はO脚になっていき、ひざの内側に体重がかかるようになるのです。

たつみ式・正しい立ち方

①両足の間をこぶし1つ分あけ、足が平行になるようにして、まっすぐ立ちます。

②つま先立ちで3秒静止します。ふらつく場合は、壁の近くなどでおこなってください。

③ストンとかかとを落として、両足の指をぎゅっと握ります。頭が少し前に出て、骨盤の真上にある状態です。

④足の指を戻して、正しい立ち方の完成です。

O脚改善! たつみ式・内もも歩き

日本人の9割は小指に負担をかけて歩くO脚ですが、これがひざの内側への負担となります。かかとを先に地面につけ、“体重を乗せるときに、ひざを内側に入れて親指をつける(O脚の方はX脚に歩くということ)”という歩き方を心がけてください。

①“正しい立ち方”で、重心は足の中央に置きます。

②頭が前に出ないように注意して、つま先を上げて踏み出します。このとき、足と反対側の手を前に出します。

③かかとから着地し、ひざを内側に入れるようにして着地した足の親指に重心をかけます。また、蹴りだすときも親指に重心を置いてください。

X脚の方の軟骨を守る! たつみ式・一直線歩き

X脚の方は、内もも歩きとは逆に“足の小指側に体重を乗せる”という歩き方を心がけてみましょう。

かかとから着地し、小指に重心を移していき前へ。両足の間はこぶし1個分程度開け、一直線上を歩くイメージで。


“腹筋”と“太もも”を鍛えて、安定した歩行を

整形外科の分野で、移動機能を損なう代表的な病気に脊柱管狭窄症があります。背骨にある“脊柱管”という神経が通る筒が狭くなり、神経が圧迫されて手足の痛みやしびれ、歩行障害などの症状を引き起こす病気です。加齢により背骨の支えが弱くなることで椎間板が出てきたり、椎骨が前後にズレるため脊柱管が狭くなり、神経が圧迫されることが主な原因です。

これを改善するには、じん帯や椎間板を安定させている“背筋”と“腹筋”を鍛えましょう。特に腹筋は衰えるのが早いため、腹筋運動を日課にすることをおすすめします。腹筋を鍛えるといっても、中高生がするような起き上がる運動は、かえって腰に負担がかかります。誰でも簡単にできる腹筋体操を紹介するので、今日からはじめてみてください。

また、背骨を支える腹筋を鍛えるとともに、太ももの筋肉(大腿四頭筋)を鍛えることも大切です。これも腹筋同様、高齢者でも手軽にできます。

座ったままできる“腹筋体操”

足腰を安定させるために腹筋を鍛えます。食前に10回、1日30回を目安におこないましょう。

①背筋はまっすぐ伸ばし、おへそを中心にお腹を背中につけるように引っ込めていきます。

②思いっきり引っ込めたらお尻の穴を引き締め、5つ数えて力を緩めます。

太ももの筋肉を増やす“足指にぎり”

安定した歩行ができるよう、大腿四頭筋を鍛えます。左右それぞれ10回、計20回を目安におこないます。

①イスに浅くかけて、片足をゆっくり持ち上げて伸ばします。

②そのまま足首を自分の方に返し、足指は足裏を掴むように力を入れ、5秒したらゆっくり下げます。

これらの取り組みで100年足腰を!

今回紹介した保存療法は、誰にでもできる簡単なものです。歳をとれば、いずれひざの痛みが生じることを肝に銘じて、痛みが出る前から少しでも早くトレーニングに取り組みましょう。

また、このような保存療法では痛みが取れない方には、人工関節置換術という手術療法があります。人工関節は著しく進歩しており、ひざ関節をすべて人工関節と取り換える全置換術のほか、じん帯を残して自然なひざの感覚を保つ半置換術も浸透しています。
いずれもメリット・デメリットがあるので、手術適用となった患者さんは、主治医の説明を聞いて納得できる方法を選んでください。

人生100年時代を謳歌するためには、痛みの原因を知り、それを取り除く正しい方法を早期に実践することが何より大切です。毎日の積み重ねを通して、多くの人が100年足腰を実現できることを願っています。

コラム監修

一宮西病院
整形外科部長 / 人工関節センター長
巽 一郎

1992年、大阪市立大学卒業。大阪市立大学医学部、大阪府立身体障害者福祉病院、⽶国Mayo Clinic フェロー、英国Oxford University 留学、湘南鎌倉総合病院を経て、2020年より一宮西病院。

⇒プロフィールの詳細はこちら

ひざの痛みで外来受診を希望される方(初診)は、完全予約制となります。
詳しくはこちらのページをご確認ください。

※本ページに掲載されている情報は、2024年7月時点のものです。
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