新型ウイルス感染症に学ぶこと
2020年、新型ウイルスによる感染者が増え、その経緯が毎日のように報道されています。
今回は世の中を騒がす新型ウイルス感染症から、どんなことが学べるのかについてお届けしたいと思います。
今回は世の中を騒がす新型ウイルス感染症から、どんなことが学べるのかについてお届けしたいと思います。
そこにウイルスがいるのか?
私たち医療者と世間一般の方とでは、ウイルス感染症についてのとらえ方が違っています。実は、私たち医療者が相手にしているのはウイルスそのものではありません。
ウイルスなどによる感染症は、本来病院に来るほどでもない軽い症状のことがよくあります。これを不顕性感染(ふけんせいかんせん)と呼びます。
不顕性感染の人は、まったく熱が出ないとか咳が出ないといった無症状の人もいます。新型ウイルス感染症でも、ウイルスが検査でみつかっているのに不顕性感染の方が大多数です※1。症状がない人からの感染もあるといわれていますので、不安になってしまいますね。しかし、症状がない人は治療することができません。重症化したり致死率が高いのはインフルエンザと同様に、肺や心臓の病気があったり、高齢者であることがわかっていますので、そういったリスク背景を診ることになります。
ウイルスなどによる感染症は、本来病院に来るほどでもない軽い症状のことがよくあります。これを不顕性感染(ふけんせいかんせん)と呼びます。
不顕性感染の人は、まったく熱が出ないとか咳が出ないといった無症状の人もいます。新型ウイルス感染症でも、ウイルスが検査でみつかっているのに不顕性感染の方が大多数です※1。症状がない人からの感染もあるといわれていますので、不安になってしまいますね。しかし、症状がない人は治療することができません。重症化したり致死率が高いのはインフルエンザと同様に、肺や心臓の病気があったり、高齢者であることがわかっていますので、そういったリスク背景を診ることになります。
□ 肺に持病がある □ 心臓に持病がある □ 糖尿病 □ 腎機能が低い □ 免疫機能が低い(ステロイド内服) □ 妊婦(産後2週目まで) □ 5歳未満 □ 65歳以上 |
検査がウソをつく?
もうひとつ、検査がウソをつくということが知られています。インフルエンザの検査が病院でできますが、インフルエンザが流行しているときに、検査をして陰性となっても60%の人は実はインフルエンザに感染していることがわかっています※2。インフルエンザ検査陰性の6割はウソということになります。新型ウイルスでもPCRという高精度な遺伝子検査を何度もおこなって、ようやくウイルスがいることがわかったという事例が報道されているように、検査は100%確実なものではありません※1。検査をしないとわからないというのも、検査結果を100%信頼していいというのも間違いなのです。
ではわたしたち医療者は何に頼っているかというと、それは患者さまの症状や、周囲の流行、患者さまが抱える病気によってリスク評価をすること、血圧や脈拍、呼吸回数といったバイタルサイン、身体診察といった医学の基本的かつ王道といえるものです。検査よりも医者の丁寧な診察のほうが診断には役に立つという研究があるくらいです※3。
ではわたしたち医療者は何に頼っているかというと、それは患者さまの症状や、周囲の流行、患者さまが抱える病気によってリスク評価をすること、血圧や脈拍、呼吸回数といったバイタルサイン、身体診察といった医学の基本的かつ王道といえるものです。検査よりも医者の丁寧な診察のほうが診断には役に立つという研究があるくらいです※3。
ウイルスを流行させないために
この2点からもわたしたち医療者はウイルスがいるかどうかではなく、患者さまの症状を相手にしているということがわかると思います。今回の新型ウイルスのように、症状が軽くすむ場合は、そこにウイルスがいるのかいないのか?ということを問題にすると、病院には数百万人以上の人が殺到することになります。その中で感染者が増えることも考えられます。
ウイルスが自分にいるかいないかが心配というお気持ちはよくわかります。しかし、病院や救急外来には体調が悪い人、病気をかかえた人が来院しています。そういった場所へ、症状が軽いにも関わらずウイルスがいるかを調べてほしいために来てしまうと、周りの人へ感染させてしまうことがありますし、自分が感染していないのに、逆に感染症をもらってしまうこともあります。ウイルスがいるかいないか?ではなく、症状があるかないかを大切にすると、地域や周囲への流行を防ぐ行動へとつながるのではないでしょうか。
ウイルスが自分にいるかいないかが心配というお気持ちはよくわかります。しかし、病院や救急外来には体調が悪い人、病気をかかえた人が来院しています。そういった場所へ、症状が軽いにも関わらずウイルスがいるかを調べてほしいために来てしまうと、周りの人へ感染させてしまうことがありますし、自分が感染していないのに、逆に感染症をもらってしまうこともあります。ウイルスがいるかいないか?ではなく、症状があるかないかを大切にすると、地域や周囲への流行を防ぐ行動へとつながるのではないでしょうか。
病院はどのように立ち向かっているか
「COVID-19(新型コロナウイルス感染症の正式名称)パンデミックに備えて病院が今すべきこと」という内容を、ジョンズ・ホプキンス大学がまとめています※4。その要約を見てみましょう。
最優先事項
- 予測にもとづいて現実的な計画をたてる
- (1)病院のマンパワーを維持するために医療従事者を保護すること
(2)病院がウイルスの培養装置になるのを防ぐこと
(3)感染していない患者を感染から守ること - 病院の労働力の維持、増強、診療能力の拡大を考える
- 限られた医療資源を合理的、倫理的、組織的な方法で割り当てること
1つ目に現実的な計画とあります。どんなに良い感染対策をしようと思っても、突然起こったできごとに対して理想どおりにはいかないものです。たとえば理想を言えば、感染患者とそうでない人の動線(通り道)を分けようと思ったら、出入口から診察やレントゲン検査など、すべてを完全に区分けして、交わらないようにしなければなりません。しかし、実際にそれは非常に効率が悪い動線となってしまいます。それを無理やり改善しようとすれば、壁に穴をあけたり非現実的な計画となります。実現可能な計画を、いまあるリソースの中で立てることが大切です。
2つ目の(1)には「医療従事者を保護すること」とあります。病院なのだから患者を最優先させるべきでは?と思った方もいるかもしれませんが、これは患者を最優先させるからこその優先事項です。というのも病院で診ている患者さまは感染症だけではなく、がんの人もあれば、心筋梗塞、脳卒中など今まさに医療の提供が必要な人ばかりです。そういった患者さまの診療は、いくらパンデミックだからといって後回しにはできません。その診療を維持しながら感染症に対応するためには、医療従事者を感染症から守ることを優先させなければなりません。
(2)では病院そのものがウイルスの培養装置になってはならないとあります。これはさも当然のように書かれていますが、そのためには不要不急の病院受診を減らす必要があります。今回のCOVID-19に罹患した大部分の人は、微熱だけ、風邪っぽいけど食欲はある、歩けるといった軽症です※5。ほとんどの場合はそのまま治癒してしまいますが、軽症の方が病院に来ると、病院での医療の提供を待つ多くの人と待合で接触することになります。そういった方に万一感染を拡げてしまうと、重症化する可能性が高まります。
3や4で言われるように、病院の診療能力には限りがありますから、それを有効に活用するためには、医療の提供が必要な重症者や重症になり得る人たちのために、あえて病院への立ち入りを制限したり、別室での診察が必要になってきます。
そうやって限られた医療資源を大切にしつつ、感染患者へ対応していく使命が病院にはあるのです。これらのことは感染者が激増する前から準備や対策をはじめておかなければ間に合いません。読者のみなさんの近くにはそういった準備を早い段階から始めている信頼できる病院はどれほどあるでしょうか。
2つ目の(1)には「医療従事者を保護すること」とあります。病院なのだから患者を最優先させるべきでは?と思った方もいるかもしれませんが、これは患者を最優先させるからこその優先事項です。というのも病院で診ている患者さまは感染症だけではなく、がんの人もあれば、心筋梗塞、脳卒中など今まさに医療の提供が必要な人ばかりです。そういった患者さまの診療は、いくらパンデミックだからといって後回しにはできません。その診療を維持しながら感染症に対応するためには、医療従事者を感染症から守ることを優先させなければなりません。
(2)では病院そのものがウイルスの培養装置になってはならないとあります。これはさも当然のように書かれていますが、そのためには不要不急の病院受診を減らす必要があります。今回のCOVID-19に罹患した大部分の人は、微熱だけ、風邪っぽいけど食欲はある、歩けるといった軽症です※5。ほとんどの場合はそのまま治癒してしまいますが、軽症の方が病院に来ると、病院での医療の提供を待つ多くの人と待合で接触することになります。そういった方に万一感染を拡げてしまうと、重症化する可能性が高まります。
3や4で言われるように、病院の診療能力には限りがありますから、それを有効に活用するためには、医療の提供が必要な重症者や重症になり得る人たちのために、あえて病院への立ち入りを制限したり、別室での診察が必要になってきます。
そうやって限られた医療資源を大切にしつつ、感染患者へ対応していく使命が病院にはあるのです。これらのことは感染者が激増する前から準備や対策をはじめておかなければ間に合いません。読者のみなさんの近くにはそういった準備を早い段階から始めている信頼できる病院はどれほどあるでしょうか。
オゾンは新型コロナウイルス対策によい?
空間除菌という言葉を聞いたことがあるでしょうか。オゾンや次亜塩素酸などを噴霧して空間をクリーンにする方法のようですが、その中のオゾンと新型コロナウイルスの関係について述べてみたいと思います。
空間除菌
世間で“身につけるだけで空間除菌”などと呼ばれているものが、新型コロナウイルスにも有効であると謳った商品について消費者庁は「裏付けとなる合理的な根拠を示す資料がない」として2020年5月15日に事業者に対して行政指導をおこないました※6。一方でオゾン発生器が、新型インフルエンザが流行した2009年に消防庁で入札されていたりします※7。
官公庁が導入するのだから、オゾン発生器はウイルスにも効果があるのだろうと思う方もあると思います。新型コロナウイルスの感染予防には関心のある人が多いですので、医学的にオゾン発生器はどうなのか?について詳しくみてみましょう。
官公庁が導入するのだから、オゾン発生器はウイルスにも効果があるのだろうと思う方もあると思います。新型コロナウイルスの感染予防には関心のある人が多いですので、医学的にオゾン発生器はどうなのか?について詳しくみてみましょう。
オゾンとウイルス感染
オゾンは大気中にも微量に含まれています。地球上でオゾンが多い時期は2月~5月で、北半球、特にカナダやアラスカ、カムチャツカ半島で多いことが分かっています※8。興味深いのは今回の新型コロナウイルスのパンデミックで有害物質の放出が減り、大気中のオゾンは19%増えたという論文があります※9。オゾンが空間に多いほうがウイルス感染対策によいのであれば、ウイルス感染患者は減るのではないか?と思いますよね。カナダの研究ではオゾン濃度と救急外来を風邪症状で受診する患者数を調べたところ、オゾン濃度が高いときほど有意に患者数が多いことが分かっています※10。
オゾンの毒性
“オゾンは体にいいもの”と思っていたら、オゾンが多いとウイルス感染になりやすいのだったら、“オゾンは体に悪いもの”になりますが、そもそもオゾンは体にとっては毒になるものです。オゾンはその濃度によって毒性が変わります。そのため日本産業衛生学会などでは許容濃度を最高0.1ppmにしています。
50ppm | 1時間で危険な状態になる |
15-20ppm | 小動物は2時間以内に死亡する |
5-10ppm | 長時間で肺水腫になる |
1-2ppm | 2時間で頭痛、胸痛、咳などが出て、慢性中毒になる |
0.5ppm | 上気道に刺激を感じる |
0.2-0.5ppm | 3~6時間で視覚が低下する |
0.1ppm | 鼻や喉に刺激がある |
0.01-0.02ppm | 多少のニオイがある |
オゾンは新型コロナウイルスに効くのか?
オゾンはたしかに新型コロナウイルスに効くようです。奈良医科大学の発表によると、6.0ppmであれば新型コロナウイルスを不活化できたとしています。当然ながら人間がこれを浴びると大変な状態になってしまいます。新型コロナウイルスもやっつけるけど、人間もやっつけられるのでは意味がありません。それほどオゾンの毒性が高いと考えると、濃度の高いオゾンを吸うことは体に害が出てしまい、濃度の薄いオゾンでは新型コロナウイルスには効果がないことがわかります。オゾンを滅菌のために高濃度で使った場合、その空間はしっかり窓をあけて換気をする必要があります。そもそもしっかり換気をするのでしたら、新型コロナウイルスの感染対策も同じことですので、オゾンがあってもなくてもしっかり換気をすることが大切です。
“空間除菌”と謳われるものを首からぶら下げたり、オゾン発生器があるから安心というのは、どちらにしても危険だとは言えないでしょうか。
“空間除菌”と謳われるものを首からぶら下げたり、オゾン発生器があるから安心というのは、どちらにしても危険だとは言えないでしょうか。
出典
※1)Special Expert Group for Control of the Epidemic of Novel Coronavirus Pneumonia of the Chinese Preventive Medicine Association. Zhonghua Liu Xing Bing Xue Za Zhi. 2020 Feb 14;41(2):139-144.
※2)Chartrand C, et al. Accuracy of rapid influenza diagnostic tests: a meta-analysis. Ann Intern Med. 2012 Apr 3;156(7):500-11.
※3)Miyamoto A, Watanabe S. Influenza follicles and their buds as early diagnostic markers of influenza: typical images. Postgrad Med J. 2016 Sep;92(1091):560-1.
※4)Eric Toner, MD, and Richard Waldhorn, MD, What US Hospitals Should Do Now to Prepare for a COVID-19 Pandemic. February 27, 2020
※5)Guan WJ, Ni ZY, Hu Y, Liang WH, Ou CQ, He JX, Liu L, Shan H, Lei CL, Hui DSC, Du B, Li LJ, Zeng G, Yuen KY, Chen RC, Tang CL, Wang T, Chen PY, Xiang J, Li SY, Wang JL, Liang ZJ, Peng YX, Wei L, Liu Y, Hu YH, Peng P, Wang JM, Liu JY, Chen Z, Li G, Zheng ZJ, Qiu SQ, Luo J, Ye CJ, Zhu SY, Zhong NS; China Medical Treatment Expert Group for Covid-19. Clinical Characteristics of Coronavirus Disease 2019 in China. N Engl J Med. 2020 Feb 28.
※6)携帯型の空間除菌用品の販売事業者5社に対する行政指導について(令和2年5月15日 消費者庁)
※7)新型インフルエンザ感染防護資機材及びオゾン発生器一式(2008年9月2日公示)
※8)オゾンの世界分布と季節変化(気象庁)
※9)Sharma S,et al. Sci Total Environ. 2020 Apr 22;728:138878.
※10)Termeh Kousha et al. Int J Occup Med Environ Health. 2014 Jan.
※1)Special Expert Group for Control of the Epidemic of Novel Coronavirus Pneumonia of the Chinese Preventive Medicine Association. Zhonghua Liu Xing Bing Xue Za Zhi. 2020 Feb 14;41(2):139-144.
※2)Chartrand C, et al. Accuracy of rapid influenza diagnostic tests: a meta-analysis. Ann Intern Med. 2012 Apr 3;156(7):500-11.
※3)Miyamoto A, Watanabe S. Influenza follicles and their buds as early diagnostic markers of influenza: typical images. Postgrad Med J. 2016 Sep;92(1091):560-1.
※4)Eric Toner, MD, and Richard Waldhorn, MD, What US Hospitals Should Do Now to Prepare for a COVID-19 Pandemic. February 27, 2020
※5)Guan WJ, Ni ZY, Hu Y, Liang WH, Ou CQ, He JX, Liu L, Shan H, Lei CL, Hui DSC, Du B, Li LJ, Zeng G, Yuen KY, Chen RC, Tang CL, Wang T, Chen PY, Xiang J, Li SY, Wang JL, Liang ZJ, Peng YX, Wei L, Liu Y, Hu YH, Peng P, Wang JM, Liu JY, Chen Z, Li G, Zheng ZJ, Qiu SQ, Luo J, Ye CJ, Zhu SY, Zhong NS; China Medical Treatment Expert Group for Covid-19. Clinical Characteristics of Coronavirus Disease 2019 in China. N Engl J Med. 2020 Feb 28.
※6)携帯型の空間除菌用品の販売事業者5社に対する行政指導について(令和2年5月15日 消費者庁)
※7)新型インフルエンザ感染防護資機材及びオゾン発生器一式(2008年9月2日公示)
※8)オゾンの世界分布と季節変化(気象庁)
※9)Sharma S,et al. Sci Total Environ. 2020 Apr 22;728:138878.
※10)Termeh Kousha et al. Int J Occup Med Environ Health. 2014 Jan.
コラム執筆
一宮西病院 総合救急部 救急科
部長
安藤 裕貴
2008年、富山大学卒業。富山大学附属病院・富山県厚生農業協同組合連合会高岡病院で初期研修後、福井大学医学部附属病院にて後期研修。福井市立敦賀病院、名古屋掖済会病院を経て、2018年より一宮西病院。
⇒プロフィールの詳細はこちら
部長
安藤 裕貴
2008年、富山大学卒業。富山大学附属病院・富山県厚生農業協同組合連合会高岡病院で初期研修後、福井大学医学部附属病院にて後期研修。福井市立敦賀病院、名古屋掖済会病院を経て、2018年より一宮西病院。
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※本ページに掲載されている情報は、2020年2~6月時点のものです。